写真00

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たいへん珍しい中田のフレンチを借りてきました。一連の中田軍用銃シリーズの最後を飾った物で、あまり売れていないのではないかと思われます。おかげで今では、写真すら少ないレアな物になっています。 写真は、kingdam9-9 さんから頂いた箱写真との合成です。


写真01

いまでは、SIG P-210 のモデルとなったと言う方が有名です。SIG 社はフレンチの特許を買い取り、P-210 を作りました。

フレンチは、フランス人技師のペッターさん(Charles Petter)が開発したので、日本では、たまにペッター・ピストルとも 言われているようです。 長いフレームに腰砕けグリップでなんともバランス悪そうで格好良くは無いです。 当時の少年は、貴重なおこずかいで購入するモデルガンならば、ガバメントやP-38 を買ったことでしょう、従って販売数も少ないのではないかと勝手に 思っています。

右側のフレームに「Made by Nakata Tokyo/Japan 」と刻印があります。
スライド上方突起は、カートのインジケーターです。よく再現されています。


名称由来

写真02

日本では、フレンチと呼んでいますがインターネットの世界で検索しても出てきません。 インターネットで探す時には「mle 1935a 」と入力するのが いいと思います。フランス語なら「pistolet 1935A 」ですね。フランスの銃だからフランス語で検索した方が良いと思い、 結果良いページに行き当たりましたが、日本の拳銃を日本語で検索してもトイガンばかりなので悲しくなります。

フランス語ページ↓
http://armesfrancaises.free.fr/PA%20Mle%2035A.html

写真は、1972年ごろの全米ライフル協会分解図集ですが、日本のモデルガン業界のバイブルです。 この本の名称を中田では採用した物です。また、当時はモデルガン化もほとんど、この本に登場するモデルばかりです。


外観チェック

写真03

なんとも細い拳銃です。繊細な感じです。小威力の弾薬を使用するからでしょう。 リコイルスプリングガイドが長いタイプのGun です。


写真04

エキストラクターは、密閉型で軍用としてホコリを遮断したかったのでしょう。

モデルガンでは、ダミーでファイアリングブロックを止める部品になっています。


写真05

実銃の刻印は、ここにはありません。内容も違います。Gun の刻印は、こういう風にあるべきだと誰しも思っていたのでは ないでしょうか?Mle 1935A というのはモデル1935 という意味だと思います。


大きさ比較

写真06

フレンチを模して9mmパラベラム口径で製作されたスイスのSIG P-210 を モデルガン化したMGC と並べています。床井雅美氏の資料によると両者は2cmくらい全長が 違いますが、モデルガンも正確そうです。それくらい違うでしょう。 フレンチの小ささがわかります。


写真07

ちなみにもっと大きな口径を使用するガバメントと並べると親と子ほど違いますね。 ガバの方は、同時代に販売されていたCMC 2型 です。

写真20 中田フレンチは、ファイアリングブロックが長いせいでハンマー露出が多いですが、実物はほとんど ハンマーが見えません。

右写真はクリック拡大します。
右写真のページはこちら
https://www.liveauctioneers.com/item/143220963_sacm-pistolet-automatique-modele-1935a


登 場

写真08

1969年12月号に予告が出てからカラー写真が実際に登場したのは、1年後の1970年12月号の Gun 誌でした。1969年には、業界自主規制の王冠マークが実行されていましたので、王冠無しの フレンチは存在しません。


メカを見る

分解写真

写真19 ↑クリック拡大します

メカは、よく実物を模して作られています。
トカレフのようにハンマー機関部を 一式引き出せます。ただし実銃に見られるバレルリンク方式は、中田では再現されていません。また、上写真のモデルガンは、エジェクターが折れているようです。

原型作者は、このころ中田のモデルは全部やっていた、六人部さんでしょう。

 参考・実銃の分解写真 →


写真10

私は以前、モデルガンの分解図を見て、トリガーは水平引きだと大うそを書いていました。
ちゃんと実銃のごとく斜め上方引きでした。しかも、ハンマー後ろ側をシアが抱え込む点など 見事にコピーしています。ハンマースプリングガイドのピアノ線も再現しています。右上写真は 前述のフランス語ページから取って来た実物写真です。


断面図

まことに大雑把ですが、イラストを描きました。シアスプリングをハンマスプリングが兼ねていますが、モデルガンでは別に存在しています。
黄色いシアの形状が 独特です。ハンマー後方に「かかり」を持ってきたのは、絶対外れない安全なセフティノッチを設けたいが為ではないでしょうか? この銃には、マニュアルセフティとマガジンセフティしかありませんので。


写真11

左下写真は実物です。中田のセフティをバラす時は、小部品が飛び出しますので 注意が必要です。右写真の位置がセフティオンで撃針にハンマーが当らなくなっています。 同写真で中田のファイアリングブロックにセフティの入る切れ込みが見られます。その部分が曲がっているのは、 打撃による影響ではないかと思います。

モデルガンのセフティ形状が実物と違っているのがよく判るように、おそらく六人部氏は、実物を見たこと無かったと思います。しかもセフティ形状がわかる鮮明な写真さえない状況で、このモデルガンを作り上げたのではないでしょうか?今でも伝説の人と呼ばれるのが判る気がします。


写真12

伝説の人には悪いのですが、バレル設計はちょっと失敗ですね。上の中田ハイパワーのような 設計をしていますが、リコイルスプリングが強烈でバレルがいつも下降していてスライドを上方に上げる力が 働いています。おかげでスライドは、こんなに広がっちゃいました。勇気を出して叩けば戻りますが・・。

下2枚の写真は、実物です。ガバメントのようなリンクプレートが2枚も付いています。小威力なのに 頑丈なつくりです。六人部氏のバレルはSIG P210 式です。

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写真21 中田のバレルは、実銃のフレンチから特許を買って作られたスイスのSIG P210 によく似ています。


写真13

お借りしたモデルガンは、スライドが広がったせいで、規定の位置よりも前方に出過ぎて しまいます。修繕は可能でしょう。亜鉛は結構やわらかいのでこれくらいは叩けば治ります。


写真15

マガジンキャッチは、日本伝統のグリップ押さえ式板バネですが、これは珍しく グリップスクリューで固定されています。 実銃は、ここにマガジンセフティが組み込まれています。


カート

カート写真

分解方法

分解方法写真 分解は、以下のよう。↑クリック拡大します。
  1. スライドを少し引いてストップを抜く
  2. ファイアリングブロックを押しながらスライドを前方に抜く
  3. ここのネジを外す
  4. ファイアリングブロックを外すとバレルと、ガイドが抜ける

おわりに

写真14

戦争で苦労をした中田忠夫氏の当初の目標である「2次大戦を忘れないように」という目標は 達せられたのか、相次ぐ規制にやる気をなくしたのか判りませんが、このあと中田からのモデルガン販売は終了します。 製品群は、下請けで実際に製造を行っていたマルシンから販売は継続されました。 しかしトカレフやフレンチは、人気が無かったのかマルシンからは販売されなかったようです。

日本のモデルガン史の種を撒いた中田の最後の製品フレンチでした。戦争の影も形も記憶も 遠ざかって行きつつある高度成長の昭和史の1ページをひっそりと飾りました。

中田氏の思いが息付いているモデルです。他の人では絶対に製品化されていなかったでしょう。 売れ行き悪かったでしょうが、「思い」は形になって今でも存在し続けています。

オーナー様貸して頂き有り難うございました。


紙 箱

紙箱写真

itijojo さんのブログ「趣味動」(リンク切れ)より勝手に使用させていただきました。
いつもお世話になります。


おまけ

分解図