写真00
やっと発売されましたCAWの南部式拳銃です。待っていました。
50歳〜の人には、ワイルドセブンの八百さんが使っていた拳銃なので、なじみがあると思いますがその割に謎の多い銃でした。 国際出版のGun 誌でも50年間に詳細なレポートはありませんでした。CAW がモデルガン化してくれたおかげで、 最近のGun プロフェッショナル誌に床井さんの詳しいレポートが掲載されました。 それほど日本の拳銃っていうのは、一般受けしないのでしょうね。 その中にあって採算度外視?で製品化してくれたCAW さんは素晴らしい会社です。  

写真01
最初に手にして驚いたのは、ボルト止めのパーツの裏側です。こんな風に板バネが仕込んでいたんですね。 実物同様のメカを再現してくれたおかげで、新発見に心わくわくです。
コッキングピースにも凸が入る切欠きが再現されています。  
実物では、板バネはカシメているのでしょう、アメリカの分解図には載っていません。
同様にエジェクターもバラせないので 分解図には書かれていません。

写真02
次に驚いたのは、マガジンのスポット溶接跡が整形されているところです。
手にするまでは、南部のマガジンが14年式を含めて、すべてこうなっていることなど思いもしませんでした。 やはり手に取れるっていうのは、素晴らしいものだと思いました。
 
左下写真のように鋼板(アルミ?)を折って合わせて溶接していますが、全周溶接してからサンダーで 溶接面を削り落として整形しています。手間のかかる方法がきちんと再現されています。
一緒に撮影したマルシンのベビー南部のマガジンが一般的なスポット溶接です。

外 観

写真03
マルシンのベビーと並べています。実によく出来ています。まぁ、本物をアメリカで採寸しているのですから 大きさ的には、ほぼ実寸大だと思います。
これが金属モデルだったらなぁ・・とかなわぬ夢を抱いてしまいます。  

写真04
ちょっとショックだったのは、六研の無可動プラスチックモデルがやや小さかったことです。
神様六人部さんが作ったのだからビッタリと実物大だと思っていました。少し残念。  

写真05
グリップの微妙なカーブも木グリに再現されています。
左に実銃写真を載せていますが、ほとんど同じ格好です。  

写真06
通常刻印や検査官の刻印も再現されています。
 

写真07
ただ、木製グリップのチェッカーはどうやって彫ったのかよく分かりませんが、上から押さえつけたような感じで シャープさが全くありません。
これは手で彫るしか再現できないので難しい部分です。
製品開発上プラ製で行くのか迷ったところではないでしょうか?  

メ カ

写真08
詳しい説明書がついてきますので、ちゃんと読めば大丈夫です・・・・
が、私のように適当に読んでバラすと部品を壊してしまいますので全分解には注意が必要です。 通常分解は何ら難しくはありません。
 
南部式の機関部は無駄の多い3重構造です。どうしてこんな構造なのか不思議でしたが、モデルガンを 手に取ってすぐに判りました。1)たくさん動くところ 2)少し動くところ 3)全然動かないところ  の3部構成なのです。発想するには簡単な考え方です。量産は大変ですが・・・。

分解ビデオ


 
通常分解とディスコネクターの仕組みをビデオにしました。
 

分解注意

写真09
写真や取説のようにセフティとトリガーのピンは片側にローレットが彫っていますので 左側から叩かないと抜けません。注意が必要です。
 

写真10
また、セフティピンを抜くときには右側のグリップは、ちゃんと外してから作業をしないと ご覧のように欠けちゃいます。ピンをたたく衝撃で机に叩きつけられて割れたものです。
手抜きすると、抜いたところはきちんと別の形で還ってくるというお手本ですな・・トホホ。
 

極注意の magキャッチ

写真11
マガジンキャッチ図 完全分解がややこしい南部の中でも極め付きはマガジンキャッチでしょう。
要注意3クラスです。はい、私は壊しました。
要は構造を理解していなかったためで、右図のようにスプリングの頭が穴に入っていることを知らなかった ためです。ここをちゃんと押さえておかないとバラせません。 私はこの穴に細いピンを入れて、しかも右回りに180度回したので、右まわりのバネをほどく方向で 変形させてしまいました。ちゃんとバネの頭を押さえて左に回さないといけません。  


写真12
おかげでバネは変形しまくり、なんとか戻そうと弄りましたが、ここはシビアなクリアランスが 求められる場所で、修復を断念しました。かわりに実際に撃つわけでもないのでテンションさえ 効いていればいいや・・と適当なスプリングを噛ませて直しました。行き当たり修繕です。
 
こんな面倒な構造をよくぞ再現してくれました。CAW さんもこの精度でパーツを作るのは たいへんだったとおもいます。  

作動注意

写真13
CAW の南部式拳銃は、動かすと壊れます。なるべく動かさない方が身のためです。
 
写真はシアバー先端が折れた状況です。撃針と当る部分です。
他にも人のブログなどで得た知見ですが、エキストラクタ、エジェクターが折れるようです。
いずれも亜鉛合金製なので衝撃に弱い部分です。
販売価格に直接響くところですが、せめてオプションでもスチールパーツが欲しいところです。
写真14
おなじく南部をモデルガン化しているマルシンの方は、どうなっているのかと思い比較してみました。 さすが老練な設計がなされていますね、これだけ厚くすれば大丈夫でしょう。
 
作り出す製品が動かして遊べる物か、実物の生き写しなのか、選択の違い・会社方針の違いが見て取れる部分です。

撃発不具合修繕ビデオ


私が購入した個体は、当初から撃発に不具合を抱えていました。
簡単な調整で治るのでビデオで解説してみました。
症状が同じ人のみ参考にしてください。
 

カート

写真15
うーーん、CAW 社長の執念みたいなものを感じるカートですね。
プライマー部分が別パーツでしかも銅色メッキ?です。
左端の実物ダミーと形状はそっくりです。
 
写真左から、実物ダミー、CAW、HWS、ミッドウェイ社ダミー、30ルガーダミーです。

グランパについて

写真16
私は以前からグランパとベビー南部はトリガーガードが同じ大きさではないかと思っているのですが この機会にマルシンのベビーのトリガーをCAWに取り付けてみようと思いました、が装着は出来ませんでしたので それなりの位置に並べてみました。
 
なんとなくグランパ南部の雰囲気ですね。

写真17
この写真は、以前アメリカのコレクターから頂いたグランパとパパの写真を重ね合わせたものです。 すぐに判るようにトリガーガードの大きさが全然違います。他にシアバーの支点の位置がパパでは 前方に移動しています。トリガーガードの大きさがパパで大きくなったためにマガジンキャッチも 下方へ移動しています。
 

写真18
実物のグランパとCAWのパパ南部を載せていますが、シアバーの支点の位置やマガジンキャッチなど パッと見ためには気付きにくいですね。
マルシンのトリガーガードをパパに付けて握った感じでは、トリガーが少し遠いかな?と感じましたので 実際の変更も実射感覚からの助言を取り入れたものではないかと思います。  

起源の考察

写真19
南部キジロウさんがこの銃を開発したのは何歳くらいだったのか興味が生じて年表を作ってみました。 南部氏は80歳の年に亡くなられています。
南部氏の業績は、ウィキペディアから拾いました。
 
南部式拳銃の開発は、おそらく5年は、かかっているのではないかと推測すると1897年頃からの開発ではないでしょうか? 南部氏が20代後半から30代前半の一番シャカリキ・エネルギーのある頃に開発されたものでしょう。
世の中に自動拳銃そのものが出現しかかっているころで、革新的な未来の道具を生み出す創造性に頭の中は 満ちていたことでしょう。
写真27
その時期にヨーロッパで発明されたこれらの拳銃がモデル、参考にされたものだと思います。
ルガー拳銃は、外観と完成イメージをもたらしているでしょう。マガジンはそっくりです。
ベルグマンNo.2拳銃も参考にされたのではないかと思います。ベルグマンNo.2はその口径が8mm、6.5mm、 5mmと3種類も有り試行錯誤を感じます。南部式も8mmの大型と7mmの小型を作ったのはベルグマンの 影響ではないでしょうか?  
モーゼルC96 は、ロッキングメカをそのまま戴いたものでしょう。

ベルグマンNo.2 について

写真20
ベルグマンNo.2 は一見すると南部とは似ていません。グリップ前方にモーゼルミリタリーのように クリップ式で装填する弾倉を持っています。
 

写真21
しかし、上から見ますと案外、南部式に似ているんです。センターに開けられた排莢口が似ています。  

写真22
そしてなによりカマボコ型のボディが良い感じで似ていると思いませんか?
 
作りにくい形状なんて、昔は考えられていません。吾輩の創ったオレ式の拳銃である、と言えば それで通った時代でしょう。なんたって自動拳銃なんてそれまで存在しなかったものなのですから。

実銃の考察

写真25
南部式の実銃写真をインターネットで探し出してみますと面白いことに気づきました。
ボルト下面に別パーツを入れ込んでカシメているところです。  
2個も写真がありましたし、Gun プロ誌のボルトもこうなっていますね。
初めて作るものだからロッキングボルトのぶつかる衝撃の強さが判らず、超鋼部材を入れ込んでいるのでは ないでしょうか?写真の「・▲・」が別パーツをカシメて止めているところです。
写真26
また、南部式はフレーム形状が複雑で作りにくかったためにいくつかの工場では、分割製造し 溶接で繋がれていますが、その様子がはっきりと分かる写真もありました。この写真は 後部をピン止め+溶接していることがはっきりと確認できます。
 
また、この個体は撃針止め部品が紛失しています。ここは南部式拳銃の弱点でしょう。
youtube でも実射で吹っ飛ぶところが映されていました。ここが飛ぶと撃針が効きませんので 発射不能になります。

歴史資料

写真24
上記の資料館のページで「明治 拳銃」で検索すると、当時の文章が見られて面白いです。
私は、最初南部式甲型、乙型はグランパとベビーを指すものと思っていましたが、この中の文章で 陸軍大臣への払い下げ要求書に甲、乙、弾薬 と書かれた書類がありました。 すなわち甲種、乙種の弾薬は同じだという裏付けになります。 小型拳銃の名前が出てくるのは、けっこう後だったと思います。 また、陸式拳銃の名も遅くに出てきます。当初は甲種、乙種で呼ばれていたようです。
参考文書:リファレンスコード=C03022986200 泰平組合 自動拳銃仝実包払下の件
 

おわりに

写真23
鬼気迫るCAW社長の顔が浮かんでくるモデルでした。こりゃぁ採算合わないと思います。
なんにしろ握った瞬間、心は1900年へ飛べるモデルです。よくぞ再現してくださったと感謝します。  
人によっては、3日で壊れるなんてと非難する方もいるでしょうが、仕方ありません。
いろいろな方向性のある中から「とにかく実物に忠実に」という一本の道を選んで、その道をまっすぐに 進んで作られた製品ですから、買う消費者もその道の上で買わないといけません。
賛否両論あって当然でしょう。しかし時が経ち歴史的な名モデルガンを選ぶときには CAW南部式拳銃もその名を連ねていることは間違いないでしょう。