写真00
ハートフォードから素晴らしいモデルガンが発売されました。94式拳銃に次ぐ日本軍の初めての正式拳銃である 26年式拳銃です。いままでは、文鎮や無可動樹脂製しか量産品としては存在していなかったので 大変貴重な存在です。少し前までちょん髷を結っていた日本人初の自主開発品であるのみでなく 陸軍将校によるクーデター2・26事件でも使用された歴史的な意味を持つ製品だと思います。 ハートフォードのラインナップに敬意を表します。

小さな疑問

写真01 26年式拳銃の源流を探ってみようと思った、そもそものきっかけは、六研の樹脂製無可動モデルとHWS を比較したときのことです。 ここのカーブの形状が、違うなぁ・・・ん??・・・そもそも、このカーブは何の意味があるんだ?? 機能的なものはないし、デザインにしてもなんだか中途半端。軽量化にも関係ないようだし・・ ふとした疑問からルーツを探ってみることにしました。おかげで、この疑問は解決しました。 答えは、記事を読み進んでいけばわかります。

1.うえ半分の検証

上部はS&Wニューモデル

SW表00 この年表はS&W No.3モデルの発売年数を記載しています。 これを見ると分かるように、44口径の大口径で登場したNo.3シリーズは、追って38口径、32口径 と小さな口径のシリーズが開発されました。
1880年からは、もっぱらダブルアクション式が開発されています。 日本陸海軍は、44口径のNo.3 拳銃を購入して正式拳銃として使用していましたが、自主開発に当たっては 38口径、ダブルアクション式としたようです。これは騎兵が片手で使用することが前提だったようです。 口径が38(9mm)というのは、すこし小さいようですが、完全に殺害することは必要ないという 発想か、ヨーロッパ各国の採用口径だったのかよく解りませんが、年代から言ってS&W No.3 ダブルアクションが 参考にされたことは、間違いないでしょう。 SW_No3_2nd 写真はNo.3 ダブルアクション 2nd モデルです。このあたりが参考にされたのではないかと思います。 ただし、S&W 製品の機関部はパーツが多いうえにフレームも強度を上げるために複雑な加工を要し、 とても生まれたての日本ではコピーできなかったと思います。 上半分のみのコピーは、大正解だったと思います。以下に2点ほどS&W メカ・コピーの検証点を挙げておきます。

S&W 式カムの検証

写真03
Webleyマーク1図
 
写真、図のように26年式拳銃のエキストラクタ・カムはS&W ニューモデルから変更された形式と まったく同じです。ウエブリーは、カムプレート自身が前後に動けるように長円の穴が開けられていますが S&W は小さなプレートが前後に動いてカムを制御します。26年式もこの方式です。 この方式は、S&W エンジニアのJ.H.Bullard 氏のデザインです。
 
写真04 S&W の分解図は、こちらの本から拝借。
この本は、モノクロ写真ばかりですが、お勧めです。
Antique Firearms Assembly/Disassembly
amazon キンドル版なら11ドル

ウエブリーの図はこちらから拝借
http://www.rifleman.org.uk/Instructions%20for%20Armourers%20-%201897.htm

S&W 式バレルキャッチの検証

写真02 何も言うことはありませんね。この固定方式は、固定が弱いために予備にハンマーによる噛み込が 施されていますが、そこもちゃんとコピーされています。 しかし強力な弾を撃つと壊れる可能性がある、S&W No.3 モデルに共通の泣き所です。
 

下部メカによる検証

RAST & GASSER と比較

Gasser写真
ラストさん設計、ガッサー社製造のオーストリア正式軍用拳銃です。ごらんのように機関部は、まったく 26年式と同じです。しかし、この銃の登場は1898年であり、26年式が明治26年(1893年)に登場していますので ガッサーさんの方がフルコピーしたものだと思います。
コピー品が出るくらい26年式も優秀だったということでしょうか?
 
参考ページ
http://www.hungariae.com/Gass98.htm
http://www.horstheld.com/0-Gasser.htm
http://www.armeetpassion.com/rastetgasser1898.html

ナガンと比較

nagant写真
ベルギーのナガン拳銃は、ロシアに輸出され現地でも生産された優秀な拳銃です。 しかし、メカ的には26年式とは似ていません。銃の全体イメージは似ていますが、この時代の ヨーロッパのリボルバーは、みな同じ形をしています。例えば次のスイス 1882 なんかも似ていますね。
 
参考ページ
http://hlebooks.com/
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意外と似ているスイス

SWISS写真
メカ的にも同じ系統ですし、サイドプレートが開くのも同じなので、初めはこれがモデルなのかと思いました。 でも、違っていました。
 
参考ページ
http://hlebooks.com/
↑たったの700円くらいで各種の詳しいE-Book が購入できます。ダウンロードして、支払いを済ませれば パスワードが送られてきて開けるようになります。お勧めします。

フランス mle 1873 と検証

mle写真
参考ページ
http://armesfrancaises.free.fr/revolver%20Mle%201873.html
 
ホルスターがこのフランス拳銃のコピーなので、mle 1873 が本命かとも思いましたが、パーツ構成が 全然違います。26年式は、ウエブリーのようなリバウンドレバー式構造で、パーツ構成は洗練されています。 とても、初めて作った拳銃とは思えませんので、どこかにモデルが存在するはずだと思い、 フランス語のページを検索していてとうとう発見しました。

ついに発見!Fagnus

mle写真
フランス語のページは「le revolver」とLE を打ち込むことでヒットします。
http://lagrandeguerre.cultureforum.net/t49436-revolver-11-mm
↑のフォーラムに載っていたこの図を発見しビビりました。まったくメカといいプレートの開きといい 26年式そのものです。あわてて調べてみたらフランスのFAGNUSというメーカーの拳銃でした。 1873年に作られたものです。
fagnus写真0
フランス語のページで検索したら、いくらでも出てきますね。そのうちの一つの写真ですが、こりゃまた、すごいコンディションですね。とても140年も前の物に見えません。
fagnus写真1
このサイドプレート押さえのレバーの曲線を見てください。このレバーの曲線に従ってフレームを削っています。 デザインの一環でしょう。反対側から見れば、思わぬものが見えてきます。
 
fagnus写真 2
どうです、26年式拳銃のフレームカットが見えてきましたね。
 
fagnus写真 4
ここですよ、ここ。何の意味も無いようなフレームカットは、実はご先祖様からの名残でした。
fagnus写真3
メカについては、何も言うことがありません。ほとんど同じものです。
26年式拳銃は、フレームのカットといい、メカニズムといいファグナスさんが源流であることは、間違いないと思います。

Fagnus写真
こちらのページにも良い写真がいっぱいありました。
http://www.littlegun.be/arme%20belge/artisans%20identifies%20e%20f/a%20fagnus%20fr.htm

おわりに

HWS写真
ハートフォードさんが、こんなに正確に再現してくれたおかげで、一気に思考は明治時代へと飛び立てました。 素晴らしい製品をありがとうございました。
それにしても、26年式拳銃は30数年間もまったくバージョンアップされることなく造り続けられた ことが不思議です。軍隊の中での拳銃という立場は、その程度だったんでしょうね。
 

おまけビデオ